⑤ 一般不妊症のポイント

卵がちゃんと育って、精子がちゃんと入口に入っていくのを確認する。これが一般不妊治療の基本です。これを何回もタイミングを合わせてみると、何割かのカップルが妊娠していきます。ポイントは、排卵モニターとヒューナーテスト。武器として、子宮鏡と人工受精が使えます。

A 排卵モニター ~排卵誘発剤の使い方~

卵胞がちゃんと育つ人は、本来、排卵誘発剤など不要のはずです。ところが、不妊の方というのは、毎周期卵ができている人は少なく、たいてい卵胞が育たない周期がでてきて、排卵誘発剤が登場してきます。まずは、経口の飲み薬があります。セキソビットというのは、一日4~6錠も飲むのに、効果はクロミフェンの一錠以下。この薬の存在意義は、頚管粘液が少なくなったり子宮内膜が薄くなるという副作用がないところにあります。つまり、毒にも薬にもならない薬?いや多少、卵胞発育に貢献するので使いやすいといえば使いやすいです。セキソビット投与で妊娠できた人は軽度の不妊症だと思います。クロミフェンは、明らかに多嚢胞性症候群(PCOS)の人とか、生理が全然来ないよ、という人には第一選択薬です。セキソビットが効かなくなった方にも使います。クロミフェンは、卵胞が大きくなるので、いかにも効いているという印象を与えます。ところが、くせがある薬で、頚管粘液が少なくなったり内膜を薄くしたりします。経験では、じっと待っていると内膜は厚くなるのですが、頸管粘液はなかなか透明にはなってくれません。そこで、ヒューナーテスト(夫婦後試験)が不良例が増えてしまいます。タイミングが合わせづらい薬なのです。この時、ポイントは頚管粘液とLHサージ(尿で測定できます)です。LHサージが期待できない時は、フレアアップという方法を用います。クロミフェンを使った時には、卵胞の大きさだけでなく、頚管粘液にも着目した方がよいと思います。クロミフェンでヒューナーテスト良好例では、辛抱強くタイミングを合わせますが、不良例では、HMGを追加したり人工授精に切り替えたりします。HMGを追加しても、そんなには改善しないので、人工授精をした方がすっきりしますが。
クロミフェンはなかなか力のある薬だと思いますが、下垂体のホルモンがおかしい方の中には、なかなか効いてくれないことがあります。有名なのは、多嚢胞性症候群(PCOS)です。そこで、クロミフェンの使い方もバリエーションがいくつかあります。10日間使ってみたり、
温経湯という漢方薬と組み合わせたり、メトホルミンという糖尿病治療薬と組み合わせたり、なんとか下垂体を揺さぶって卵巣刺激ホルモンを出させようとします。半分くらいの人が反応しますが、半分はよくないです。昔レトロゾル今はフェマーラという乳がんに使う薬を使うこともたまにあります。タイミング法でHMG注射を初期から使うことは、滅多にしておりません。使うなら、最初クロミフェンでいって、途中からHMG注射をアシストです。HMGも今は組み換えDNAのフォリスチムという薬にかわりつつあるようです。そのフォリスチムをもってしても、卵胞数コントロールが極めて難しく、体外受精で卵胞数をコントロールしないと多胎になってしまうことがあります。

垂体の働きがわるい人は、FSHやHMGという注射を打ちます。これで育ってくれるならば、まだ救いがあります。卵胞さえ育てば、体外受精をはじめとして有効な手段はあります。早発閉経というやっかいな状態があり、これは下垂体が悪いのではなく、卵巣が老化してしまったためにおこります。こうなるとやっかいで、「若返り」を図らなければなりません。漢方薬の八味地横丸を地道に続けたり、DHEAという一部で有名な薬に頼ったりします。卵巣も普段FSHの高い状態に慣れてしまっており、ピルを飲んで、FSHを下げて卵巣をFSH漬けの状態から救い出して、改めて大量のFSHを打ったりして、なんとか卵胞がでる状態を作り出さなければなりません。どうしても駄目だと、他の方からの卵子提供となってしまいます。不妊治療を早めに、というのは、こういう世界があることを医師が知っているからなのです。

B 子宮鏡・卵管鏡を利用した治療

子宮鏡検査は、膣の方から子宮の入り口を通して子宮腔内に直径3mmの非常に細い内視鏡をいれて水を流して、子宮腔を膨らませながら、子宮腔を観察する検査です。また、器具を挿入し、卵管口に色素を注入したり、ポリープを除いたりできます。
無麻酔で行うと、緊張して子宮内腔が狭まったりして検査不能に陥ることがあります。そこで、当院では原則的に全例に、プロフォボールという静脈麻酔を厳重管理で行い、子宮鏡を施行しています。

子宮鏡によく似た装置で、さらに細いのが卵管鏡です。これは、卵管鏡下にて、カテーテル先端のバルーンで卵管内腔を押し広げ、卵管内にバルーンを前進させることにより、卵管内腔の観察および卵管通過性の回復を図るというものです。心臓カテーテルのPTCRという方法に似ておりますが、透視および造影剤を使用しないのでよりからだに優しいだと思います。ただし卵管は、繊毛という繊細なものがあり、風船で広げても、繊毛が痛まずに機能してくれるかどうかがわからない、という点が弱点です。当院では、平成22年4月より卵管鏡下卵管形成術(FTカテーテル法)の施設基準が認定され、卵管狭窄および閉塞の方に対して、静脈麻酔下にこの手術を行っております。高額治療に入りますが、保険治療が効きます(数か月後に、所属の健康保険から限度額まで還付されます)。従来、名古屋のクリニックに依頼しておりましたが、外来で、卵管閉塞の患者様の数が増えていること、紹介先に断られるケースが多いことなどにより、当院で行うことにしました。開通率は70-80%となりますが、妊娠率は35%にとどまる報告が多いです。なるべく、自然妊娠を願う方に積極的に行っております。


C 人工授精

男性から射精された精子を、細いチューブを使って子宮腔内に入れることを人工授精(IUI=Intra Uterine Insemination)といいます。

人工授精には、夫の精子を使用するAIH(Artificial Insemination by Husband)と、提供者の精子を使用するAID(Artificial Insemination by Donor)の2種類あり、一般的には夫の精子を使用するAIHを指します。AIDは現在、提供精子の管理が煩雑なため東海3県で行っている施設が少なく、関西方面で行われることが多いようです。

精液中には雑菌が存在することもあります。射出された精液をそのまま子宮腔に入れたのでは、卵管に感染をおこして卵管閉塞の原因になることもありますので、洗浄した精液を用いた人工授精を行っています。精液を30分放置してから、比重の重い溶液の中で遠心させると、重い精子は底に沈みます。それをもう一度、卵管組成液で溶かして洗ったものを使うわけです。比重の重い溶液を何層にもわけて使うと、XY精子の選別がある程度できると言われています。これは生み分けに応用できるのですが、もちろん成功率100%ではありません。

精子濃度の少ない方、精子の運動性の悪い方、精液量の少ない方、逆行性射精の方、勃起不全がありうまく夫婦生活が行えないがマスターベーションでは射精できる方が人工授精の対象になります。 良い精子が得られると、やはり妊娠率は高くなります。

当院では、朝、自宅採精してもらい奥様に、精子の容器を持ってきていただき調整するか、夕方6時半までに旦那様が来られて、採精室で採られるのを、調整するか、の二通りで対応しております。

D 腹腔鏡検査・手術

腹腔鏡検査とは、全身麻酔をかけておへその下から非常に細いカメラを入れて、お腹の中を調べる検査です。
お腹の中に癒着があるとそれをはがしたり、卵巣嚢腫の核出術、子宮筋腫の核出術や卵管開口術を行うこともできます。
日帰りは、安全上難しいので当院の提携病院で行わせていただきます。体調が良ければ、2泊3日で退院を可能にしております。不妊症関係で、以下の適応があるとされております。

1. 子宮内膜症またはその疑いがある場合
2. 子宮卵管造影で異常があった場合(卵管閉塞、卵管さい癒着、子宮奇形)
3. クラミジアなどの骨盤感染症の診断(急性期を除く)
4. 多嚢胞性卵巣症候群の治療
5. 原発性無月経または早期閉経症の卵巣生検
6. 原因不明不妊症(機能性不妊症)
7. 長期不妊症
8. 卵巣嚢腫
9. 子宮筋腫

最近は、経膣的腹腔鏡(TDL)というものがあり、こちらは日帰りでもできそうで、当院でも導入を検討しております。