特定不妊治療費助成について
こうのとりチームが発進しました。すでに数例の体外受精の成功例が得られております。初めての施設のシステムがうまく作動するかどうかについては、気をもむのですが、よい胚とよい結果ができて、スタッフ一同胸をなでおろしています。
私たちは、特定不妊治療費助成の指定医療機関であるのですが、体外受精というものが特定不妊治療費助成というものではなく、保険診療の枠に入れられることを望んでおります。つまり基本的に、体外受精胚移植というものが自費扱いであることに疑問を感じております。いろんな観点から見て、採卵操作は、腹腔鏡手術より危険率は低いと思います。体外受精児というものの総数、その予後を考えてみても、自費診療という特殊枠に入れられる必要はないのではないか、と思います。
昔の教科書のフローチャートには、タイミング法を6周期、人工授精を6周期して、妊娠しないならば、腹腔鏡手術を推奨しているものが多いと思います。その結果、さらに6ヶ月乃至12ヶ月で妊娠しなければ、体外受精に移行せよ、と。これには、私たちは疑問を抱いております。
採卵操作は、エコーガイド下に針をいれて吸引する操作です。盲目的に針を入れているわけではありません。この操作は、腹腔鏡手術の麻酔、腹腔内に至るための複数の穴あけ、腹腔内での器具の操作に比べて、危険率はおそらく低いと思われます。体の負担に対しても、入院を要する腹腔鏡手術と、日帰りで行える採卵では、どちらが負担を要するかは自明です。腹腔鏡で癒着を切除したり、焼却する操作は危険と裏腹です。卵巣に対して行う多孔術も、熱を与えるだけに卵巣にダメージを与える操作であることは疑いがありません。
私たちは、一定期間の自然妊娠を狙った後、体外受精を早期に一度行い、卵の質、精子の受精能を確認してから、もういちど自然妊娠を狙うか、体外受精を継続するか、考えてもよいのでは、と考えております。腹腔鏡手術の意義としては、反復体外受精不成功例に対して、「やむをえない処置」として行うものとして考えています。腹腔鏡手術は、保険診療なのですが、成功率がはっきりしないし、おなかにいくつも傷跡が残りますし、決して、体に優しい手術ではないからです。
すなわち、体外受精の敷居を低めることこそ、不妊治療を効果的に、負担のすくないものにするために不可欠な要素ではないか、と考えております。これは、私たちの考えであって、間違っているかもしれません。しかし、過去に私たちが行ってきた腹腔鏡手術を反省してみても、「まず体外受精ありき」という考え方を、当分は変えるつもりはありません。
今回、平成21年度から、1回の助成額が15万円に拡充されました。しかし、年度あたり2回、通算5年間、という助成です。これは、現場からすると、納得いかない設定なのです。予算が一年単位で行われるせいなのか、なぜ、年度で計算されているのでしょうか?5年間も不妊続ける人間は、そんなに多くありません。体外受精の年間累積妊娠率は、凍結融解胚移植の進歩などにより、9割近くになると類推されています。しかし、誰もが2回以内に妊娠するわけではありません。3回や4回になってしまうこともあります。あるいは、体外受精を1月から始める方も多いと思いますが、調節周期では、3月一杯まで一回しか助成を受けられない計算になってしまいます。
たとえば調節周期の場合、4月に体外受精を受けて妊娠せず、7月に再チャレンジして結果がでなかった人は、9月以降に体外受精を受けられますが、以後翌年4月になるまでは助成を受けることができません。それでは、来年4月まで、体外受精をためらう人もでてくるのでは、と思います。来年4月まで待っているまでに、卵巣の老化が進んでしまう恐れもあります。クロミフェン周期で行っている人にとっては、さらに役立ちません。また、15万円という助成も、妊婦検診費用や分娩費用の助成額(38万円)と比べると、ずいぶん少ないようにも感じております。また、産科の助成に対して、収入制限があることにも納得いかないものを感じております。共働きの患者さんは、この収入制限にひっかかる方も多いのではないかと思いますが、働いている人を応援していない、この制度に対して、いかにもお役所的な思考を感じてしまうのは私たちだけでしょうか?
私たちは、少しでも敷居を低めるために、自動車のリスク細分型保険のように精一杯、価格を下げるため努力してきました。当院の価格表を他院様の価格と見比べていただければ、「おそらく、体外受精を保険診療にしていただいた方が、こうのとりWOMEN’S CAREクリニックの収入は増えるのではないか」と考えている私たちの考えはご理解いただけるのではないでしょうか?企業努力として、限界近くまで下げておりますが、もうすぐ、試薬の無料提供や、検査費用の優遇など、関連業者からの支援もなくなってしまいます。けれど、患者さんにこれ以上の負担をお願いするのも、現場の人間としては忍びなく、いろいろ検討した挙句、今回、7月に、私たちは価格表を別ページの自費診療価格のように改定させていただきました。
ポイントは、施設使用料という項目をつくったことと、年間2回までという特定不妊治療費助成という現状を踏まえて、年間2回までしか加算しないことにしたことです。簡単にいうと、高額な器械や工事費で造り上げた培養室の借金返済に、施設使用料を充てさせていただきます、ということです。実際の操作に伴う人件費や消耗品は、個々の状況に応じて加算するという、考え方です。これにより、患者さんの設定としては、以前とほとんど違わない負担とすることができました。ほどほどの負担で、なるべく多くの方に当院の体外受精を受けていただく、これが、私たちの基本となる考え方です。これは、今後も変わらないと思います。